デザイナーの紹介

デザイナーの住宅に対する想い

彼女が建築デザイナーを目指そうと思ったのは、ミッション系の女子校に通っていた中学3年生の頃だったそうです。エスカレーター式にそのまま大学まで進学できる学校という恵まれた環境にいながら、その環境に違和感を感じていたからだそうです。

「あまり女性らしいことをしたいと思わなかった。できれば男性と同等に働ける職種を選びたいと、漠然とした思いがありました」と、彼女は語ります。

男性に頼らず自立して生きていきたい、そう思った彼女ですが、数ある職業の中で、なぜ、男性が多い建築設計の分野を目指すようになったのか。
それは生活空間である"家"に対して、なにより興味があったからです。

関西では歴史のある大阪市立工芸高校の建築デザイン科で学び、京都精華大学の美術学部デザイン科建築学部に進学します。その大学は、美術学部と人文学部の二つしかない、規模としては決して大きな大学ではありません。

ただ、日本で唯一のマンガ学部があるというように、美術学部はとてもユニークな教育をしていました。

建築学部には、もう引退しましたが建築だけではなく、『日本人の心と建築の歴史』『鎮守の森の物語』などの著書もあり、多方面で活躍していた上田篤という有名な教授がいました。上田教授の発案で現役の建築設計として活躍している建築家五人を集めて、生きた建築学を教えることを志したのです。

三年生からゼミは設計製図のみと徹底していました。どの先生も個性的で、生きた設計製図を学ぶことができたと振り返ります。

普通の大学の建築学部の教授は大学で教えることを職業としているために、現場経験や実際に作品を製作するという実践的な経験を積んでいません。そのために知識や理論を重視し、ユーザーや時代のニーズとマッチしない、いわば埃をかぶったような時代遅れの内容を教えているのが実情です。
それに対して、上田教授の考え方は明快でした。

「まったく現実の作品と結びついていないようなことを教えているから机上のプランになってしまう」というものです。

学生は、現役の建築家でもある先生たちの作品を見ながら自分たちの作品を作っていくということを常にやっていたそうです。

学生時代にそうした経験を積むことで彼女は、「住む人の目線からデザインを考えるという生きた建築デザイン」を身につけることができたのです。
建築デザインにとって、何が一番大切なのか。それは住む人の、「ここに住んでよかった」という満足感です。

デザインとしては斬新であっても、住み心地や使い勝手が悪ければ本来の目的からかけ離れてしまいます。つまり、機能的で、しかもデザインとしても優れていることではないでしょうか。

機能性とデザイン。この二つを満足させるには、なにより「住む人の目線でデザインを考える」ということではないかと思うのです。

それは彼女が生み出す作品の原点でもあり、私たち事業部全員の共通の考えでもあるのです。

欧米住宅の利点とは

大学を卒業した彼女は、グラスゴーというスコットランドの街に語学留学したり、カナダやオーストラリアなど海外での生活を体験したことで、欧米と日本人の居住空間への違いを体感しています。

直接、欧米の人たちの住宅への考え方やこだわりを知ったことが、彼女の設計思想に大きな影響を与え、それが現在の陽彩コーポレーションに受け継がれています。

たとえば、グラスゴーの人々は、古い家を購入して、壁のペンキを塗り替えたり、バスルームのタイルを張り替えたり、自分たちでやれることはなんでもやって、住みやすい空間に造り替えていくのだそうです。

とくにイギリスでは、家は新しいものより旧いもののほうが価値が高く、メンテナンスをしっかりやっていれば、「住宅は永久に長持ちする」と多くの人が考えています。

もちろん、日本にも江戸後期、明治、大正、昭和初期に建てられた旧い住宅が残っていますし、そうした歴史的建造物を残していこうという動きもあります。

ただ、そうした動きは、建物を文化財として保存することや観光用に地域の活性化に役立てようということが目的であって、一般の人を対象に住宅用として提供されるのはごく少数です。

欧米では、旧い建物の外観はそのまま活かし、内部にいろいろ手を加えて自分たちが暮らしやすいように造り替えるのが一般的です。家族みんなで、あるいは友人や知人の助けを借りて、部屋の壁の色を塗り替えたり、洗面台を取り替えたりバスルームにタイルを張ったりと、楽しみながら快適で暮らしやすい空間に替えていく。そんな過程を通して、家に対しての愛着が強くなっていくのです。

そうした欧米の国々では、ホームセンターの品揃えが豊富で充実しています。洗面台を始め、水道の蛇口、ドア、壁や床材、タイルなどたくさんの種類の部材から、選ぶことができるようになっています。専門の業者に頼んで、好みのものにつけ替えるということも行なわれています。

日本でもホームセンター内にはDIYコーナーがあり、さまざまな部材が置いてありますが、欧米ほど種類や品揃えが充実してはいません。なぜかというと、簡単な補修や修繕は行なっても、積極的に住空間を自分が手を加えて、より快適な空間に造り替えていこうという考え方が、まだまだ一般的ではないからです。

その結果、日本では中古住宅市場が充分には発達していません。住宅を購入しようとすると、やはり新築物件ということになります。日本は地震や台風などの自然災害が多いことに加え、木造は燃えやすく、壊れやすいということもあるかも知れません。

でも、マンションは鉄筋コンクリートでできています。木造住宅と比べて耐久面で優れているのはいうまでもありません。

欧米の人たちは、中古住宅市場が発達しているために、マイホームに対する考え方も、日本人とは異なります。「一生、そこに住み続ける」ものではなく、家族構成や成長に合わせて家を買い替えていく。

つまり、いったんマイホームを購入したら、生涯そこに縛られることなく、自分の好みやライフスタイルの変化に応じて引っ越すという感覚が強いのです。

そして、念願のマイホームを手に入れたら、自分たちが住みやすいように、あるいはより快適な空間になるように、家に手を加えていくのです。私たち日本人も、そろそろ欧米のこのマイホームへの考え方に学ぶべき時期に来ているのではないでしょうか。